生活習慣病は、大人になってから気をつければいいと思っていませんか?
実は、心臓病や糖尿病などの病気は、赤ちゃんがお母さんのおなかの中にいるときから始まっているという研究があります。
Barker仮説とDOHaDの違いをわかりやすく解説
「病気は生まれてからの生活習慣で決まる」──昔はそう考えられていました。
しかし近年、「お母さんのおなかの中にいた時期や、生まれてすぐの環境が将来の健康に影響する」という考え方が注目されています。
その代表が Barker(バーカー)仮説 と DOHaD(ドーハッド) です。
Barker仮説とは?
イギリスの医師デイヴィッド・バーカー博士が1980年代に提唱した仮説です。
「胎児期に栄養が不足すると、成人後に心臓病や糖尿病などの生活習慣病になりやすくなる」という考え方です。この仮説は、「出生時の体重が少ない人ほど、大人になって心臓病になるリスクが高い」という研究結果から生まれました。
- 胎児期の栄養不足
- 低出生体重児
- 将来の生活習慣病のリスク増加
DOHaD(ドーハッド)とは?
DOHaDは Developmental Origins of Health and Disease(健康と病気の発生の発達起源) の略で、バーカー仮説を土台にさらに研究が広がった考え方です。
「胎児期から乳児期、さらに幼少期にかけての環境が、その人の一生の健康に大きな影響を与える」という考え方です。
影響を与える要因には以下のようなものがあります:
- 妊娠中の栄養状態
- 母親のストレスや感染症
- 化学物質やタバコなどの外的要因
- 幼少期の生活習慣
胎児期だけでなく、発達のすべての時期と多様な環境因子が重要であるとするのがDOHaDです。
日常生活とのつながり
たとえば、妊娠中のお母さんがバランスよく食べ、ストレスを減らし、タバコやお酒を控えることは、赤ちゃんの将来の健康を守る第一歩です。
このような配慮は単なる“母子の健康管理”ではなく、未来の成人病予防にもつながる大切な行動です。つまり、健康は「生まれてから作るもの」ではなく、「生まれる前から育てるもの」だということですね。
安次嶺 馨 (あしみね かおる)先生
1967年鳥取大学医学部卒業
1975年県立中部病院小児科医長就任
2003年同病院院長就任
2004年県立那覇病院院長就任
2006年4月に沖縄県立南部医療センター・こども医療センター初代院長に就任。専門は小児科学、新生児学
所属学会・団体:日本新生児成育医学会名誉会員、日本小児救急医学会名誉会員、
日本DOHaD学会顧問、国際DOHaD学会会員、米国小児科専門医、琉球交響楽団理事
著書:『太平洋を渡った医師達 13人の北米留学記』(編著)医学書院,2003
『小児科レジデントマニュアル第4版』(編著)医学書院,2021、その他多数
DOHaD学説で学ぶ胎児・赤ちゃんから始める生活習慣病の予防・幻冬舎 (2023/6/2)
バーカー仮説とDOHaD(ドーハッド)学説を解説して、生活習慣病予防についてわかりやすく説明。
長寿ツリーと生活習慣病ツリー(安次嶺 馨 先生の考え)
人の一生を「一本の木」にたとえると、根っこの部分、つまり胎児期や乳児期がとても大切です。
安次嶺馨先生は、この考えを「生活習慣病ツリー」と「長寿ツリー」で表現しています。
生活習慣病ツリー
- 妊娠中の喫煙・飲酒
- 栄養不良、妊娠高血圧、早産、低出生体重児
- 人工乳、揚げ物、ファーストフード
- 遅寝遅起き、運動不足、虫歯、喫煙、飲酒
これらが生活習慣病(糖尿病、高血圧、がん、心筋梗塞、脳卒中、精神疾患)へとつながっていくのです。
長寿ツリー
- 妊娠中の適切な栄養
- 正期産、禁煙、母乳育児
- 和食中心、煮物中心の食事
- 適度な運動、早寝早起き、虫歯なし
「木の根(=胎児期・乳児期)」が健康であれば、「幹や枝(=成人期)」も丈夫になり、長寿につながります。
父親の影響も重要!
- 父親の肥満・糖尿病・飲酒・喫煙は精子の質を下げ、子どもの健康に影響
- 父親の高齢化は子どもの発達障害のリスクを上げる
- 妊娠前から父親の健康づくりが必要
妊婦さんへの支援とエピジェネティクス
妊娠中に起こる「エピジェネティクス(遺伝子の働きの変化)」は、胎児の将来に影響しますが、生まれたあとの生活習慣で、良い方向に変えていくことも可能です。そのためには、妊娠中・妊娠前からの禁煙支援、栄養指導、そして周囲のサポートが欠かせません。
沖縄からのメッセージ:「命どぅ宝」「童どぅ宝」
「命どぅ宝(ぬちどぅたから)」とは、「命こそ最高の宝」という沖縄の言葉です。
太平洋戦争で15万人の県民が命を失った沖縄では、今も命の大切さを語り継いでいます。
そして「童どぅ宝(わらびどぅたから)」とは、「子どもこそ宝」という意味です。
現代の平和な日本でも、生活習慣病によって多くの命が失われている今、胎児期から始める健康づくりが重要です。
簡単なまとめ
- Barker仮説: 胎児期の栄養不足が成人後の病気と関係する
- DOHaD: 胎児~小児期の環境全体が一生の健康に関わる
- 父親の健康状態: 精子の質に影響し、子どもの健康にも関係
- 生活習慣病ツリー: 妊娠中から悪い生活習慣が病気の根に
- 長寿ツリー: 妊娠中の適切な栄養や良い生活習慣が健康長寿の土台に
最後に
生活習慣病の予防は、大人になってからだけでなく、胎児期、乳児期、そして妊娠前から始まっています。
「命どぅ宝」「童どぅ宝」の精神で、次世代の健康を守っていきましょう。