ねんねトレーニング「ネントレ」って本当に必要??

「ネントレ」って本当に必要?
母乳育児中の赤ちゃんのねんねとの付き合い方

「ネントレをすれば一晩ぐっすり寝てくれる」そんな情報をSNSや本で見て、「やった方がいいのかな?」「やっていない私はダメ?」と不安になる方も多いかもしれません。ここでは、「ネントレ(ねんねトレーニング)」とは何か、そしてどんな問題点があるのかを簡単にまとめました。「ネントレをしなければいけない」というプレッシャーから少しでも自由になり、赤ちゃんと家族に合ったねんねの形を考えるきっかけになればうれしいです。

1. 「ネントレ(ねんねトレーニング)」ってなに?

最近よく耳にする「ネントレ」とは、「赤ちゃんを一人で長く眠れるようにすること」を目的にした、睡眠のトレーニングのことを指して使われることが多い言葉です。

よく紹介される方法の例:

  • 決まった時間に寝室を暗くして、一人で寝かせる
  • 赤ちゃんが泣いても、すぐには抱き上げず、一定時間おきに様子だけ見に行く(「泣かせるネントレ」など)
  • 夜間授乳の回数を計画的に減らし、決めた時間以外は授乳しない

「親も眠れるようになる」「生活リズムが整う」といった言葉とともに紹介されることが多く、寝不足でつらい時期には、魅力的に感じられることもあります。


2. 赤ちゃんのねんねは、大人とはちがうのが「ふつう」

まず知っておきたいのは、赤ちゃんの睡眠は発達の途中であり、大人とはまったくリズムが違うということです。

  • 生まれてすぐ〜数か月のあいだは、昼夜を問わずこま切れに眠る
  • 生後3か月ごろでも、3〜4時間ごとに起きることがよくある
  • 6〜7か月以降、少しずつ自分で眠りに入ったり、まとまって眠れるようになっていく

つまり、「夜に何度も起きる」ことは、赤ちゃんにとってごく自然な姿です。
決して「ネントレをしていないからダメ」「甘やかしているからダメ」というわけではありません。一方で、赤ちゃんがよく起きると、親の睡眠不足や疲労、気分の落ち込みなどにつながることも知られています。「親がしんどい」と感じるのも、とても自然で大事なサインです。


3. ネントレの問題点

① 効果の根拠がじつははっきりしない

生後6か月未満の赤ちゃんに対して行われる、いわゆる「ネントレ」に近い睡眠トレーニングについて、
母親や赤ちゃんの睡眠・こころの健康が本当に良くなるのかを調べた研究では、
はっきりした効果は示されなかったという報告があります。

それにもかかわらず、SNSなどでは

  • 「ネントレさえすれば朝まで寝てくれる」
  • 「やらないのは親の努力不足」

のような極端なメッセージが出てくることもあります。
科学的な裏づけが十分とはいえないのに、「必ずやるべきテクニック」のように扱われてしまうことは問題と言えます。

② 夜間授乳・母乳育児への影響

夜間の授乳やスキンシップは、

  • 赤ちゃんの栄養と成長
  • 母乳の分泌
  • 親子の安心感・愛着形成

などにとって、とても大切な時間です。

ネントレの一部には、

  • 「なるべく夜は授乳しない」
  • 「泣いてもすぐには授乳しない」

といった方法が含まれることがありますが、これによって

  • 授乳回数が減り、母乳量が減ってしまう可能性
  • 赤ちゃんの体重増加や発達への影響
  • 「泣いているのに応じられない」ことで、お母さん・お父さんが強い罪悪感を抱くといった心配が出てきます。

母乳育児は赤ちゃんの発育発達、将来的な病気予防にもとても大切です。
「夜間授乳を一律に減らす」より、「どうしたら少しでも楽に続けられるか」を一緒に考えることが大切です。

③ 赤ちゃんのサインを「無視する練習」になってしまうことも

赤ちゃんの「泣き」は、

  • お腹がすいた
  • 寒い・暑い・苦しい
  • さびしい・こわい・抱っこしてほしい

など、さまざまなサインです。

「泣いても一定時間は反応しない」という方法を続けると、

  • 赤ちゃんの小さなサインに気づきにくくなる
  • 親が「本当は抱き上げたいのに我慢する」ことで、直感や自信が削られてしまう

ということが起こり得ます。
本来、赤ちゃんの神経や体内時計は、大人との関わりの中でゆっくり育っていくものです。
「泣かないようにする」よりも、「泣いたら応じながら、少しずつ昼と夜のリズムを一緒につくっていく」視点が大切です。赤ちゃんの訴えに答えずに泣いても答えないということは、赤ちゃんがその後一人で寝ているのでは泣く、泣くのをあきらめる様になっているという可能性があり、赤ちゃんの自己肯定感がはぐくまれるのを邪魔してしまう可能性があります。泣くのをあきらめた赤ちゃんは、

  • 大人に対する信頼感が育ちにくく、
    不安・引っ込み思案・対人関係のむずかしさなどを抱えやすい

  • 自分は大切にされる価値がある、という感覚(自己肯定感)が育ちにくい

といった傾向が繰り返し報告されています。自分は大切な存在で、周囲は信じられる存在だといういく感覚(=自己肯定感)をはぐくむことは、子どもの将来の生きる力にとても大切なものです。

④ SNSの「成功体験」に振り回されやすい

SNSなどでは、

  • 「3日で朝まで寝るようになりました!」
  • 「泣かせるのはかわいそうだと思っていたけど、やってよかった」

といった成功した人の声だけが目立ちやすい傾向があります。
一方で、

  • うまくいかなかった人
  • 途中でやめた人
  • そもそも「うちの子には合わなかった」と感じた人

の声は、なかなか表に出てきません。

その結果、

  • 「ネントレしても寝ないのは、私のやり方が悪いからだ」
  • 「やっていない私はダメな親なのかも…」

と自分を責めてしまう方もいます。ネントレは「やる・やらない」を家庭ごとに選んでよいものであり、やっていないからといって、親として劣っているわけではまったくありません。

4. ネントレよりも大切にしたいこと

日本のガイドラインや小児科のマニュアルでは、
「トレーニング」よりも、次のようなことが大切だとされています。

  • 赤ちゃんの月齢に合った、だいたいの睡眠時間の目安を知る
  • 朝の光を浴びる・日中はよく遊ぶ・夕方以降は少しずつ落ち着いた環境にする など、
    生活リズムや「ねんねしやすい環境」を整える
  • 家族の生活に無理のない範囲で、寝る時間・起きる時間の目安をつくっていく

そしてなにより、

  • 赤ちゃんのペースを知ること
  • 安全な睡眠環境(窒息のリスクを減らす寝床、保護者のそばでの睡眠など)を整えること
  • 家族全体の睡眠とメンタルヘルスを守るための工夫を、一緒に考えること

が大切です。

「泣いても抱かない」ことよりも、「無理のない範囲で、みんなが少しでも楽に過ごせる方法」を見つけていくことが、長い目で見てとても大切だと考えられています。


5. さいごに ― 「ネントレしなきゃ」は手放しても大丈夫

もし、ネントレの情報を見て、ぐっすり眠れるようになるならやってみたいと思うのであれば、こんなふうに考えてみてください。

  • ネントレは「必ずしなければいけない育児」ではありません。
  • 赤ちゃんが夜起きるのは、発達の途中でごく自然なことです。
  • お母さん・お父さんがしんどいときは、周りに頼ったり、医療機関に相談することもとても大切です。

私たちは、
「ネントレをしましょう」ではなく、
「あなたと赤ちゃんに合った眠り方を、一緒に考えていきましょう」

という立場でサポートしたいと考えています。

気になることがあれば、どうぞ遠慮なくご相談ください。


参考文献

  1. Douglas PS, Hill PS. Behavioral sleep interventions in the first six months of life do not improve outcomes for mothers or infants: a systematic review. Journal of Developmental & Behavioral Pediatrics. 2013;34(7):497-507.
  2. Wong SD, Wright KP Jr, Spencer RL, et al. Development of the circadian system in early life: maternal and environmental factors. Journal of Physiological Anthropology. 2022;41(1):22.
  3. 太田英伸.子どもと養育者の睡眠を最適化し両者のメンタルヘルスを改善する.日本新生児成育医学会雑誌.2021;33(3):57-59.
  4. Zimmerman D, Bartick M, Winter LF, et al. ABM Clinical Protocol #37: Physiological Infant Care—Managing Nighttime Breastfeeding in Young Infants. Breastfeeding Medicine. 2023;18(3):159-168.
  5. Blair PS, Ball HL, McKenna JJ, et al. ABM Clinical Protocol #6: Bedsharing and Breastfeeding. Breastfeeding Medicine. 2020;15(1):1-12.
  6. 国立成育医療研究センター.改訂版 乳幼児健康診査 身体診察マニュアル.2021.
  7. 厚生労働省.健康づくりのための睡眠ガイド2023.

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この記事を書いた医師

島袋 史 (ゆいクリニック院長)
  • ゆいクリニック院長
  • 島袋 史
  • Fumi Shimabukuro
  • 【資格】日本産婦人科学会専門医、母体保護法指定医、ホメオパシー認定医、新生児蘇生法インストラクター。1970年東京都生まれ、1989年大学入学のため沖縄へ。1995年、琉球大学医学部卒業。琉球大学産婦人科入局。沖縄県内にて研修後、2011年にゆいクリニックを開院。4児の母。小児科医の夫と共に、多くの女性の出産・育児を支援するほか、更年期や月経トラブルなど女性のための治療を行い、ホメオパシーや栄養療法やプラセンタ療法などの自然療法も積極的に取り入れている。特に、小麦や砂糖、乳製品、食品添加物を一切使わない食事をクリニックで提供するなど、食事療法の重要性を説いている。