「母乳だと眠れない」は本当? 眠り方の工夫で変わる夜の授乳

質問:母乳をあげていると、愛情ホルモンが出ると言われていますが、夜中の授乳など1年半寝不足が続いたりすると、愛情より、イライラしている方が多い気がします。どうやって解決していけばいいですか?

1. 母乳育児と「愛情ホルモン」

母乳をあげると、脳からオキシトシンというホルモンが分泌されます。
オキシトシンは別名「愛情ホルモン」「絆ホルモン」と呼ばれ、次のような働きがあります。

  • 子宮の回復を促す

  • 母乳の分泌を促進する

  • 赤ちゃんへの愛着や安心感を高める

  • ストレスを和らげ、リラックスさせる

しかし、寝不足や過労が続くと、オキシトシンの効果を感じにくくなり、イライラが優先されてしまうこともあります。つまり、ホルモンの力を活かすためにも、睡眠と休息が重要なのです。

[オキシトシンのはたらき]

┌────────────────────┐
│ 授乳 → 脳がオキシトシン分泌 │
│ ① 子宮回復 ② 母乳分泌促進 │
│ ③ 愛情・安心感↑ ④ ストレス↓ │
└────────────────────┘
[

2. 「母乳だと眠れない」は誤解?

複数の研究では、母乳育児の方がミルク育児よりも夜間の睡眠時間がやや長い傾向が示されています。理由はシンプルで、準備・片付けが不要で、夜中も短時間で授乳を終えられるためです。特に添い寝授乳は、起き上がらずに授乳できるため再入眠がスムーズになります。


3. 夜間授乳を楽にする工夫

夜間授乳のポイント

  • 添い寝授乳で起き上がらない

  • オムツ替えは必要時だけ、暗い部屋で

  • 夜間は光・音・会話を最小限に

  • 家事は翌日に回す

  • 日中の仮眠を「家事より優先」にする


4. 共寝のメリットと注意

安全対策をしたうえで、赤ちゃんと一緒に寝ること(コ・スリーピング)は、

  • 授乳後の再入眠が早い

  • 母乳継続率が高まる

  • 夜間覚醒時間が短くなる
    という利点があります。

ただし、窒息リスクを避けるため、乳児用寝具の使用・柔らかい枕や掛け布団を避けるなど安全ガイドラインの遵守が必須です。


5. 赤ちゃんとママの体内時計

夜間の母乳にはメラトニンが多く含まれ、赤ちゃんの睡眠リズムづくりに役立ちます。
昼は明るく、夜は暗い環境で過ごすことで、親子ともに睡眠の質が上がります。

夜間授乳のスタイル比較

母乳(添い寝) → 起き上がらず授乳 → すぐ眠れる
ミルク(別室) → 起きて準備・片付け → 覚醒時間長い

まとめ

  • 母乳授乳は「愛情ホルモン=オキシトシン」を分泌し、絆や安らぎを深める

  • 睡眠不足はオキシトシンの効果を感じにくくするため、休息が大切

  • 母乳だから眠れないわけではなく、夜間の運用方法で睡眠は改善可能

  • 添い寝授乳や共寝(安全対策つき)、光環境の工夫で眠りの質を守れる

 


参考文献

  1. Kendall-Tackett K, Cong Z, Hale TW. The effect of feeding method on sleep duration, maternal well-being, and postpartum depression. Clin Lactation. 2011;2(2):22-26. PubMed

  2. Montgomery-Downs HE, Clawges HM, Santy EE. Infant feeding method and maternal sleep and daytime functioning. Pediatrics. 2010;126(6):e1562–e1568. PubMed

  3. Doan T, Gardiner A, Gay CL, Lee KA. Breast-feeding increases sleep duration of new parents. J Perinat Neonatal Nurs. 2007;21(3):200-206. PubMed

  4. Academy of Breastfeeding Medicine. ABM Clinical Protocol #37: Physiological Infant Care—Managing Nighttime Breastfeeding in Young Infants. Breastfeed Med. 2023;18(3):159–168. 全文PDF

  5. McKenna JJ, Gettler LT. Mother–infant co-sleeping, breastfeeding and sudden infant death syndrome (SIDS). Acta Paediatr. 2016;105(1):17–23. PubMed

 

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この記事を書いた医師

島袋 史 (ゆいクリニック院長)
  • ゆいクリニック院長
  • 島袋 史
  • Fumi Shimabukuro
  • 【資格】日本産婦人科学会専門医、母体保護法指定医、ホメオパシー認定医、新生児蘇生法インストラクター。1970年東京都生まれ、1989年大学入学のため沖縄へ。1995年、琉球大学医学部卒業。琉球大学産婦人科入局。沖縄県内にて研修後、2011年にゆいクリニックを開院。4児の母。小児科医の夫と共に、多くの女性の出産・育児を支援するほか、更年期や月経トラブルなど女性のための治療を行い、ホメオパシーや栄養療法やプラセンタ療法などの自然療法も積極的に取り入れている。特に、小麦や砂糖、乳製品、食品添加物を一切使わない食事をクリニックで提供するなど、食事療法の重要性を説いている。