赤ちゃんはお弁当と水筒を持って生まれてくる!

質問:産まれてすぐに母乳は出ないのが普通という事がわかったが、3日以降もなかなか母乳が出なくても赤ちゃんは大丈夫なのでしょうか?

国立岡山病院小児医療センターの山内逸郎先生は、日本の新生児医療のパイオニアで、晩年は母乳育児推進にそれこそ命をかけていらっしゃいました。

「赤ちゃんはお弁当と水筒を持ってうまれてくる」はその山内逸郎先生名言です。赤ちゃんは産まれる前の数週間で、お弁当(皮下脂肪)と水筒(細胞外液)を体に蓄えて生まれてきます。胎盤からでるホルモンの影響で、お産後3日間はあまり母乳はでないため、それに備えて赤ちゃんはちゃんと蓄えを持って生まれてくるのです。実は赤ちゃんは少しむくんだ状態で生まれていて、生まれてしばらくは体重が減るのが当たり前なのです。

でも、3日すぎてもまだおっぱいが出なかったら大丈夫なのか、心配になりますよね。おっぱいがしっかり出てくるようになるための鍵は、頻回授乳です。母乳育児成功のための必要条件として山内逸郎先生は以下の様に提唱されています。

山内3.5カ条

1: 出産30分以内に、初回授乳をさせること。(今は1時間以内と言われています。)
2: 出産24時間以内に、7回以上(初回授乳は含まず)母乳を飲ませること。
3: 出産直後からの母子同室、母子同床にすること。
3.5: 乳管開通操作を、陣痛が起こったら始めて、乳管のつまりを取っておくこと。

他にも母乳育児を成功させるための提言がWHOからもだされています。

母乳育児がうまくいくための 10 のステップ
「母乳育児成功のための 10 カ条」2018 年改訂版
WHO/UNICEF:The Ten Steps to Successful Breastfeeding, 2018

施設として必須の要件
1a. 「母乳代用品のマーケティングに関する国際規準」と世界保健総会の関連決議を
完全に順守する。
1b. 乳児栄養の方針を文書にしスタッフと親にもれなく伝える。
1c. 継続したモニタリングとデータ管理システムを確立する。
2. スタッフが母乳育児を支援するための十分な知識、能力、スキルを持つようにする。
臨床における必須の実践
3. 母乳育児の重要性とその方法について、妊娠中の女性およびその家族と話し合う。
4. 出産直後からのさえぎられることのない肌と肌との触れ合い(早期母子接触)がで
きるように、出産後できるだけ早く母乳育児を開始できるように母親を支援する。
5. 母親が母乳育児を開始し、継続できるように、また、よくある困難に対処できるよ
うに支援する。
6. 医学的に適応のある場合を除いて、母乳で育てられている新生児に母乳以外の飲食
物を与えない。
7. 母親と赤ちゃんがそのまま一緒にいられるよう、24 時間母子同室を実践する。
8. 赤ちゃんの欲しがるサインを認識しそれに応えるよう、母親を支援する。
9. 哺乳びん、人工乳首、おしゃぶりの使用とリスクについて、母親と十分話し合う。
10. 親と赤ちゃんが継続的な支援とケアをタイムリーに受けられるよう、退院時に調整
する。
翻訳:NPO 法人日本ラクテーション・コンサルタント協会 2018 年 9 月

これらのことをしっかりやっても、ゆいクリニックでも、どうしても4日目以降もおっぱいが十分に出ない場合もあります。その場合にはお母さんと赤ちゃんの状態をしっかりみながら、母乳が出てくるのを待てるのか、ミルクを足した方が良いのか、検討していきます。ゆいクリニックでは約82%のお母さんが母乳だけで退院していきます。心配な事があれば気軽に助産師さんにも相談できますので、安心してくださいね。

この記事を書いた医師

島袋 史 (ゆいクリニック院長)
  • ゆいクリニック院長
  • 島袋 史
  • Fumi Shimabukuro
  • 【資格】日本産婦人科学会専門医、母体保護法指定医、ホメオパシー認定医、新生児蘇生法インストラクター。1970年東京都生まれ、1989年大学入学のため沖縄へ。1995年、琉球大学医学部卒業。琉球大学産婦人科入局。沖縄県内にて研修後、2011年にゆいクリニックを開院。4児の母。小児科医の夫と共に、多くの女性の出産・育児を支援するほか、更年期や月経トラブルなど女性のための治療を行い、ホメオパシーや栄養療法やプラセンタ療法などの自然療法も積極的に取り入れている。特に、小麦や砂糖、乳製品、食品添加物を一切使わない食事をクリニックで提供するなど、食事療法の重要性を説いている。