看護学校での講義
先日、数回にわたって、ぐしかわ看護学校に講義に行かせてもらいました。私が担当したのは、妊娠、出産、新生児、産後の異常についてです。教科書的な内容と、それ以外に、栄養の大切さ、母乳育児、性教育について等もお話しさせてもらいました。
以前に看護学校で講義した動画も紹介します。
【知っておきたい食事の知識】砂糖、小麦、乳製品、食品添加物を控えましょう 前編
【知っておきたい食事の知識】後編
性教育:産婦人科医が伝えたい「正しい性の知識」中高生までに知っておきたい性の知識
前編動画
後編動画
以前、ぐしかわ看護学校で講義したときの様子の紹介
今回、ぐしかわ看護学校の生徒さんから質問があったので、下記お答えします。
質問:深部静脈血栓症よりも表在性静脈血栓症が多い理由を教えて。
表在性静脈血栓症(superficial vein thrombosis, SVT)と深部静脈血栓症(deep vein thrombosis, DVT)について
◆ 表在性静脈血栓症(SVT:superficial vein thrombosis)
皮膚のすぐ下を走る表在静脈に血栓(血のかたまり)が形成され、炎症や痛みを伴う状態。以前は「血栓性静脈炎」とも呼ばれていたが、現在では血栓形成が主因であるとされ、SVTと呼ばれる。
◉ 主な原因・リスク因子:静脈瘤(下肢)、注射や点滴による血管損傷、長時間の立位、妊娠・出産、脱水・喫煙・高齢、経口避妊薬(ピル)使用
◉ 主な症状:皮膚に沿った赤み・腫れ・圧痛・硬結(しこり)、熱感、静脈瘤に一致して痛みが出ることも多い
◉ 診断:視診と触診で特徴的な所見が得られやすい、必要に応じて**超音波検査(エコー)**で血栓の有無や範囲を確認
◉ 治療:局所の安静と冷却、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などで疼痛・炎症を抑える、圧迫ストッキング、通常は安静で経過を見ます。
◆ 深部静脈血栓症(DVT:deep vein thrombosis)
◉ 疾患の説明:筋肉の深部にある深部静脈に血栓ができる病気。肺血栓塞栓症(PE)を引き起こすリスクがある重篤な疾患。
◉ 主な原因・リスク因子:血流のうっ滞(長時間の安静、術後、旅行)、血管内皮の損傷(手術、外傷)、凝固能の亢進(がん、妊娠、経口避妊薬、先天性血液疾患)
◉ 主な症状:下肢の腫脹・痛み・熱感・発赤、ただし、無症状のこともある、両側性よりも片側性の症状が多い
◉ 診断:超音波検査(エコー)、D-ダイマー測定、必要時に造影CTやMRI
◉ 治療:抗凝固療法(ヘパリン・DOACなど)、一部重症例では血栓溶解療法や血管内治療も、圧迫療法・早期離床も重要
◆ 表在性静脈血栓症の方が多い理由
① 表在静脈は外的刺激を受けやすい
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表在静脈は皮膚直下にあるため、機械的刺激(打撲・圧迫・注射・カテーテルなど)や炎症にさらされやすい。
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例えば、点滴ルートや静脈注射でよく使われる前腕・手背などの表在静脈は、静脈炎や血栓性変化を起こしやすい。
② 静脈瘤がSVTのリスク因子
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下肢静脈瘤は、表在静脈の血流停滞や血管壁の障害を引き起こしやすく、SVTの大きな原因となる。
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静脈瘤のある人では、DVTよりもSVTのリスクが顕著に高いとされています。
③ 血流が遅く、凝固亢進の影響を受けやすい
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表在静脈は、血流速度が遅く、血液のうっ滞が起きやすい。
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高齢・長時間の立位・脱水など、血液凝固能の亢進につながる要因が加わると、表在静脈での血栓形成が起こりやすくなる。
④ 発症しても目立ちやすいため診断されやすい
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SVTは、皮膚の発赤・硬結・圧痛などの局所症状が明瞭なため、早期に気づかれて医療機関を受診し、診断されやすい。
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一方DVTは、無症状~軽微な症状であることも多く、見逃されている場合もある。
◆ まとめ
比較項目 | 表在性静脈血栓症(SVT) | 深部静脈血栓症(DVT) |
---|---|---|
頻度 | 多い | 少ない |
血流速度 | 遅い | 速い |
外的刺激 | 受けやすい(注射、打撲など) | 受けにくい |
リスク因子 | 静脈瘤、外傷、注射、脱水 | 長期臥床、悪性腫瘍、手術など |
発見されやすさ | 皮膚に近く症状が明確 | 深部で気づかれにくいことも |