ぐしかわ看護学校生徒さんよりの質問と回答

ぐしかわ看護学校生徒さんよりの質問と回答

お産の場面で、英語の通じる看護師や医療英語通訳は必要ですか?

質問:
外国人移住者が増加している中で、お産の場面でも英語の通じる看護師や医療英語通訳のできる看護師の必要性はあると思いますか?

回答:
はい。お産の場面では、英語の通じる看護師や、医療英語でコミュニケーションをとれる看護師の必要性はとても高いと思います。

妊娠・出産は、ただでさえ不安が大きい時期です。さらに、言葉が十分に通じない環境では、妊婦さんやご家族の不安はより大きくなります。痛みや出血、胎動、破水、陣痛、手術、薬、授乳、新生児の状態など、大切な情報を正確に伝え合う必要があるからです。

特にお産の現場では、急に状況が変わることがあります。陣痛が強くなる、赤ちゃんの心拍が下がる、帝王切開が必要になる、出血が増える、赤ちゃんの処置が必要になるなど、短い時間で説明し、同意を得て、対応しなければならない場面があります。そのような時に、妊婦さんが医療者の説明を理解できないままだと、不安や恐怖が強くなります。また、医療者側も、妊婦さんの症状や希望を十分に聞き取れないと、安全な医療につながりにくくなります。

英語ができることは、安全なお産につながります

医療現場での英語は、単に日常会話ができるというだけでは十分でないことがあります。たとえば、「お腹が張る」「破水したかもしれない」「胎動が少ない」「出血がある」「めまいがする」「息苦しい」など、妊娠・出産に関わる表現を理解できることが大切です。

また、医療者からも、「今から内診をします」「赤ちゃんの心拍を確認します」「点滴をします」「帝王切開が必要になる可能性があります」「薬の副作用として吐き気が出ることがあります」などを、できるだけ分かりやすく伝える必要があります。

英語で基本的な説明ができる看護師がいることで、妊婦さんは安心しやすくなります。そして、妊婦さんの不安が軽くなることは、お産の場面でとても大切です。

通訳は「言葉を訳すだけ」ではありません

医療英語通訳は、単に日本語を英語に、英語を日本語に置き換えるだけではありません。医療の内容を正確に理解し、患者さんに分かりやすく伝え、医療者にも患者さんの思いや希望を正確に伝える役割があります。お産の場面では、文化や宗教、家族観、出産に対する考え方の違いも関係します。たとえば、立ち会い出産、授乳、へその緒、胎盤、痛みへの対応、産後の過ごし方などについて、国や文化によって考え方が違うことがあります。そのため、外国人の妊産婦さんを支援する時には、「日本ではこうです」と一方的に伝えるのではなく、その方が何を大切にしているのかを確認する姿勢も大切です。

看護師だからこそできる支援

看護師が英語で少しでも声をかけられることは、大きな安心につながります。完璧な英語でなくても、「痛みはどうですか」「大丈夫ですか」「赤ちゃんは元気です」「ゆっくり息をしましょう」「何か心配なことはありますか」と伝えられるだけでも、妊婦さんの不安は軽くなります。

また、看護師は患者さんの一番近くにいる医療者です。診察や処置の前後、陣痛中、授乳中、産後の入院中など、妊婦さんや産婦さんと接する時間が長いからこそ、言葉の壁に気づきやすい立場でもあります。

「分かっているように見えるけれど、本当は理解できていないかもしれない」「不安そうだけれど、うまく言葉にできていないかもしれない」と気づけることも、看護師にとって大切な力です。

すべてを一人で通訳しようとしなくてよい

ただし、看護師がすべての通訳を一人で担う必要はありません。大切な説明や同意が必要な場面では、医療通訳、電話通訳、翻訳ツール、英語の説明文書などを組み合わせることも必要です。

特に、手術、緊急処置、薬の説明、同意書、赤ちゃんの状態説明など、誤解があってはいけない内容では、できるだけ正確な通訳体制を整えることが大切です。

一方で、日常的な声かけや基本的な観察、簡単な説明は、看護師が英語で対応できると現場はとても助かります。医療通訳と看護師の英語力は、どちらか一方ではなく、両方が支え合うものだと思います。

看護学生さんに身につけてほしいこと

これから看護師を目指す皆さんには、完璧な英語を目指す必要はありません。まずは、妊娠・出産・産後・授乳・新生児ケアに関する基本的な英単語や、よく使うフレーズを少しずつ覚えることから始めるとよいと思います。

たとえば、pain、bleeding、contraction、water breaking、baby’s heartbeat、breastfeeding、fever、dizzy、nausea、medicine など、周産期でよく使う言葉を知っているだけでも役立ちます。

また、英語が苦手でも、やさしい表情でゆっくり話す、短い言葉で伝える、絵や指差しを使う、翻訳アプリを補助的に使う、分かったかどうか確認する、という工夫はできます。

まとめ

外国人の妊婦さんやご家族が増えている中で、お産の場面でも英語の通じる看護師や医療英語通訳のできる看護師の必要性は高くなっています。

妊娠・出産は命に関わる場面であり、言葉が通じることは安心だけでなく、安全にもつながります。特に、症状の確認、処置の説明、同意、緊急時の対応では、正確なコミュニケーションがとても大切です。

看護師が少しでも英語で声をかけられること、医療通訳につなげる判断ができること、文化の違いを尊重して関わることは、これからの周産期医療にとって大切な力になると思います。

看護学生の皆さんには、ぜひ「英語が完璧でないから無理」と思わず、まずは患者さんに安心してもらうための一言から学んでいってほしいです。その積み重ねが、外国人妊産婦さんと赤ちゃんを支える大きな力になります。

この記事を書いた医師

島袋 史 (ゆいクリニック院長)
  • ゆいクリニック院長
  • 島袋 史
  • Fumi Shimabukuro
  • 【資格】日本産婦人科学会専門医、母体保護法指定医、ホメオパシー認定医、新生児蘇生法インストラクター。1970年東京都生まれ、1989年大学入学のため沖縄へ。1995年、琉球大学医学部卒業。琉球大学産婦人科入局。沖縄県内にて研修後、2011年にゆいクリニックを開院。4児の母。小児科医の夫と共に、多くの女性の出産・育児を支援するほか、更年期や月経トラブルなど女性のための治療を行い、ホメオパシーや栄養療法やプラセンタ療法などの自然療法も積極的に取り入れている。特に、小麦や砂糖、乳製品、食品添加物を一切使わない食事をクリニックで提供するなど、食事療法の重要性を説いている。