ぐしかわ看護学校生徒さんよりの質問と回答
人工乳と母乳で育った場合、成人後の健康に差はありますか?
質問:
人工乳と母乳で、どちらか片方だけを与えた場合、成人した際に健康上に差はあるのか。
回答:
とても大切な質問です。母乳育児には、赤ちゃんにとってもお母さんにとっても多くのメリットがあることが知られています。
結論からいうと、集団として見ると、母乳で育った子どもは、将来の肥満や糖尿病などのリスクがやや低い傾向があると報告されています。また、乳児期には感染症、中耳炎、下痢、呼吸器感染症などが少なくなることも知られています。CDC(アメリカ疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention))も、母乳は多くの赤ちゃんにとって最良の栄養源であり、赤ちゃんの短期・長期の病気のリスクを下げる可能性があると説明しています。ただし、これは「母乳だけで育った人は必ず健康で、人工乳で育った人は不健康になる」という意味ではありません。成人後の健康は、授乳方法だけで決まるものではありません。遺伝、妊娠中の栄養、出生体重、乳幼児期の環境、食事、運動、睡眠、ストレス、喫煙、飲酒、社会環境など、たくさんの要因が関係します。
母乳のメリット
母乳には、赤ちゃんに必要な栄養だけでなく、免疫に関わる成分も含まれています。特に初乳には、免疫グロブリンなどが多く含まれ、赤ちゃんを感染から守る助けになります。
また、母乳は赤ちゃんの成長に合わせて成分が変化します。授乳は栄養を与えるだけでなく、肌と肌のふれあい、安心感、親子の愛着形成にもつながります。
長期的には、母乳で育った子どもでは、肥満や2型糖尿病のリスクが低い傾向が報告されています。WHOのレビューでも、母乳育児の長期的影響として、血圧、2型糖尿病、コレステロール、過体重・肥満、知的発達などが検討されています。
人工乳の役割
人工乳は、母乳が十分に出ない場合、母乳をあげることが難しい場合、赤ちゃんの体重増加が不十分な場合、お母さんの体調などで母乳を続けることが難しい場合に、赤ちゃんを育てるための大切な栄養です。人工乳は、赤ちゃんに必要な栄養を補うために作られています。人工乳を使うことは、決して悪いことではありません。ただし、薬のように本当に必要な場合に使うということが大切です。
母乳だけ、人工乳だけで比べる時の注意点
母乳と人工乳を比べた研究では、母乳の方がよい結果が出ます。しかし、その差には、授乳方法そのもの以外の要因も関係している可能性があります。
たとえば、母乳育児をしやすい環境がある家庭では、産後の支援が多い、健康意識が高い、経済的・社会的な背景が違う、喫煙率が低い、食生活が違うなど、他の要因も影響していることがあります。そのため、研究結果を見る時には、「母乳だけの効果」と「家庭環境や生活習慣の影響」を完全に分けることは難しい面があります。
つまり、母乳にはメリットがありますが、成人後の健康差をすべて授乳方法だけで説明することはできません。
お母さんへのメリットもあります
母乳育児は赤ちゃんだけでなく、お母さんにもメリットがあります。CDCは、授乳した母親では乳がん、卵巣がん、2型糖尿病、高血圧のリスクが低くなる可能性があると説明しています。また、授乳によって子宮の収縮が促され、産後の回復を助けることもあります。
大切なのは、赤ちゃんとお母さんを支えること
医療者や看護者として大切なのは、母乳育児の良さを伝え、サポートしていくことです。母乳が出ない、授乳がうまくいかない、人工乳を使うという場合には、看護師や助産師のサポートが母乳育児をうまくいくように、サポートしていくことが大切です。
まとめ
母乳育児には、感染症の予防、肥満や糖尿病のリスク低下など、短期的・長期的なメリットがあるとされています。可能であれば母乳をすすめる意義はあります。しかし、人工乳で育ったからといって、成人後に必ず健康上の問題が起こるわけではありません。成人後の健康は、授乳方法だけでなく、その後の食事、運動、睡眠、生活習慣、家庭環境など多くの要因によって決まります。
看護スタッフが母乳育児について正しく学び、母乳育児をサポートできる体制を整えることで、より多くのお母さんが母乳育児をうまく進められるようになります。そのため、ぐしかわ看護学校の生徒さんたちにも、少しでも母乳育児についての正しい知識を身につけていただけたらと思っています。受講後の感想からも、「母乳育児について勉強になった」という声がたくさん寄せられており、とてもうれしく思いました。


