母乳育児中(授乳中)の妊活と不妊治療、授乳中の月経再開時期

質問:次の子の妊娠を希望する場合、なるべく早めに断乳した方が妊娠しやすいですか?

答え:次の妊娠のために断乳する必要はありません。

産後早期の妊娠は母体への負担になる。

産後すぐに次の妊娠をする場合には、産後の回復もままならず、乳児を育てなから妊娠して胎児を育てることになります。妊娠、出産によって、母体は栄養的にも体力的にもかなりの消耗しているので、産後1年未満での次の妊娠はできるだけ避けることをお勧めします。母体の栄養状態が悪くても次の妊娠がおこってしまう可能性はあります。

授乳中の妊娠の可能性:授乳性無月経による避妊

授乳中には、次の3つの条件があえば妊娠の可能性は2%以下となります。98%妊娠しません。

  • 乳児が6ヶ月未満
  • 母乳だけで育てている(母乳以外の補足はせず、昼間は4時間以上、夜は6時間以上授乳間隔があかない)。
  • 月経再開していない(産後56日以上たってからの性器出血がない)

産後6ヶ月以内で母乳育児だけをしている場合には妊娠の可能性は低いですが、その期間をすぎると母乳育児をしていても妊娠の可能性があります。また、妊娠を避けたい場合には、予期せぬ妊娠を避けるためにも産後最初のセックスから他の避妊方法を併用する必要があります。

産後月経が再開するまでの平均期間

生後6ヶ月間母乳だけで育てて、赤ちゃんに母乳以外のものをあげたり、おしゃぶりを使ったりせず、夜も昼もほしがるだけ授乳する自律授乳で育てて、6ヶ月以降に食事をあたえながら、自律授乳を続けたアメリカの母親の研究では、産後月経が再開するまでの平均期間は14.6ヶ月(産後1年3ヶ月程度)だったという報告があります。授乳頻度と月経再開の時期、妊娠できる能力とはかんけいすると言われていて、授乳頻度が多いほど、妊娠の可能性は低くなります。またいったん月経再開した後に、授乳頻度が増えると月経が無くなることもあります。ただし、月経が来なくても排卵が起こってから月経が来るので、妊娠しないというわけではありません。

母乳育児中の避妊

母乳育児中の最初の月経では無排卵であることも多いのですが、月経再開前に排卵が起こることもあります。産後1月をすぎてセックスを再開する場合には、最初のセックスの時からコンドームを使用しましょう。また、産後6週からは子宮内避妊具を装着可能なので、次の妊娠を数年後に考えている場合には、子宮内避妊具の装着もお勧めです。今後の妊娠の予定が無いのであれば、パートナーに男性永久避妊手術(精管結紮術)を受けてもらうと言うこともお勧めです。授乳中に女性ホルモン(プロゲスチン)を使用した避妊を行うことは、母乳分泌の低下を引き起こすので少なくとも産後8週以降で行う。経口避妊薬(エストロゲンプロゲスチン併用)の内服も母乳分泌の低下を招きます。低用量ピルは母乳分泌の低下にそれほど影響なく併用可能といわれていますが、母乳分泌低下が著しい場合には他の避妊方法への変更も検討するべきです。

自然な妊娠のタイミング

授乳が頻回であれば母親の体力的にもまだ次の妊娠の準備が出来ていないと考えられます。自然に授乳回数が減って、上の子どもの母親への授乳の必要性が減ってくると次の妊娠も成立しやすくなるでしょう。自然経過に任せて次の妊娠をすることができると、妊娠中や産後の上の子への対応もスムーズに行きやすいと思います。

早めに次の妊娠を希望する場合

それでもどうしても早めに次の妊娠をしたいという事であれば、いきなり断乳ではなく、授乳中の上の子どもに負担の無い程度に授乳回数を減らしていくという事も方法の1つです。ただし、妊娠が目的では無いので、次の子どももしっかりと育てるためにも、お母さんの栄養状態の改善と生活のサポート(しっかり睡眠をとる、栄養のある食事がしっかりとれるなど)は大切です。次の妊娠を希望して、避妊をしていないのに1年以上妊娠しないのであれば、不妊治療を検討することも必要かもしれません。

妊娠中の母乳育児

次の妊娠をしても、すぐに母乳育児をやめる必要はありません。妊娠中に母乳育児をしたからと行って、流産が増えるという事はありません。次の妊娠をすると特に断乳をしなくても、自然に授乳を終わる可能性が60~70%有ると言われています。慌ててやめずに上の子の様子をみましょう。

母乳育児と育児のQ&A

授乳中の不妊治療

授乳中にも不妊治療可能です。授乳中はプロラクチンというホルモンの働きで、排卵が抑制されます。けれども、授乳を行っていても、血中プロラクチン濃度は徐々に低下して、授乳していない時と同じレベルにまで産後2~3ヶ月で戻っていきます(プロラクチンレベルは下がっても、乳腺のプロラクチンに対する反応性が高いためおっぱいは出続けます)。授乳しないと分娩後7日で妊娠していないときのレベルまで低下します。一般的には不妊治療を行う場合には授乳をやめるように指導されることがほとんどですが、治療方法や母親の状況によって、授乳中に不妊治療を行うことも可能です。授乳中でも自然排卵は起こりえますから、超音波で排卵を観察するタイミング法や、排卵誘発剤による治療もできます。排卵誘発剤では、薬剤を使って授乳しても、赤ちゃんへの悪影響は心配いりません。体外受精で凍結胚を移植する場合には、卵胞ホルモンと黄体ホルモンなどのホルモン剤を使用します。これらの薬剤を使っても、赤ちゃんには悪影響はありませんが、母乳分泌が低下する可能性はあります。ただ、使用期間はとても短いので、あまり心配いりません。凍結胚が残っている場合、早く断乳して早く次の妊娠をしたいと考えるかもしれません。でも産後にしっかりと良い栄養状態で妊娠できる身体作りをせずに、時間だけを焦ってしまっては逆効果になってしまいます。また、WHOは少なくとも子どもは2歳かそれ以上母乳育児を続けることを推奨しています。肉体年齢と暦年齢は必ずしも一致しません。しっかりと若さを保てる食生活、生活習慣を行って、良い状態で次の妊娠を迎えることをお勧めします。

妊活のために大切な養生

妊活のために大切な養生

母乳育児中の薬について

※参考文献:

母乳育児支援スタンダード第2版、「母乳育児と妊娠」金森あかね、「母乳育児中の不妊治療」桑間直志、

関連コラム

母乳育児中の妊娠~流産リスクは心配ありません!

この記事を書いた医師

島袋 史 (ゆいクリニック院長)
  • ゆいクリニック院長
  • 島袋 史
  • Fumi Shimabukuro
  • 【資格】日本産婦人科学会専門医、母体保護法指定医、ホメオパシー認定医、新生児蘇生法インストラクター。1970年東京都生まれ、1989年大学入学のため沖縄へ。1995年、琉球大学医学部卒業。琉球大学産婦人科入局。沖縄県内にて研修後、2011年にゆいクリニックを開院。4児の母。小児科医の夫と共に、多くの女性の出産・育児を支援するほか、更年期や月経トラブルなど女性のための治療を行い、ホメオパシーや栄養療法やプラセンタ療法などの自然療法も積極的に取り入れている。特に、小麦や砂糖、乳製品、食品添加物を一切使わない食事をクリニックで提供するなど、食事療法の重要性を説いている。